Double Pendulum / Numerical Study / Chaos

二重振り子のカオスは、
何を測ると見えてくるのか。

同じ二重振り子でも、どの初期条件では弱く、どこでは強くカオスになるのか。
このページでは、49 個の初期条件に対する数値実験をまとめ、複雑性、情報生成率、 粗視化エントロピー、部分系情報流までを 1 本のストーリーとして読み解きます。

  • 強カオスほど複雑性は高いが、方向付き情報流は逆に弱くなる
  • 白色ノイズとカオスは、Permutation entropy で明確に分離できる
  • shuffle surrogate test によって、本物の coupling と見かけの相関を切り分けられる

Key Thesis

カオスは「情報を消す」のではなく、
情報の形を変える。

強カオスでは Lyapunov 指数、KS エントロピー、圧縮複雑性、粗視化エントロピー生成が増えます。
ただし局所的で方向付きの情報流は弱まり、情報はより広く scramble された形で残ります。

初期条件 49 点

7 × 7 グリッド

実験本数 8 本

複雑性から surrogate まで

KS vs λ₁ r = 0.9986

Pesin relation に近い

entropy growth 10.58×

strong / weak slope 比

Weak chaos

秩序化した結合が残る

情報共有も transfer entropy も、時間順序を壊した surrogate よりかなり大きい。

Strong chaos

共有は速いが、方向は見えにくい

mutual information は残る一方、transfer entropy は surrogate に近づく。

Big Picture

複雑性、エントロピー、情報流がつながる

カオス性を 1 つの指標でなく、複数の窓から同時に見ると構造がはっきりする。

Core Message

強カオスほど「複雑で混ざる」。ただし「向きのある予測可能情報」はむしろ弱くなる。

このページは、Lyapunov 指数だけでは見えない二重振り子のカオス性を、複雑性と情報流の観点からまとめ直した結果ページです。

Overview

まず、どんな数値実験をしたのか

対象は等質量・等長の二重振り子です。時間発展は RK4 で追い、最大 Lyapunov 指数の tertile で weak chaos と strong chaos を切り分けました。

Experiment Setup

基本設定

状態変数
[θ₁, ω₁, θ₂, ω₂]
時間刻み
dt = 0.01
総ステップ数
18,000
捨てステップ
3,000
初期条件
θ₁(0), θ₂(0) を 7 × 7 で走査
分類
Lyapunov 指数の tertile で weak / strong に分割

Region Summary

weak chaos と strong chaos の平均像

Weak chaos

  • λ₁ = 0.4167 ± 0.3799
  • hKS = 0.4418 ± 0.3912
  • LZMA ratio = 0.6663 ± 0.0433
  • Permutation entropy = 0.2554 ± 0.0180

Strong chaos

  • λ₁ = 1.3840 ± 0.0410
  • hKS = 1.4256 ± 0.0471
  • LZMA ratio = 0.7206 ± 0.0071
  • Permutation entropy = 0.2785 ± 0.0143

同じ二重振り子でも、初期条件に応じてカオスの強さがかなり変わることが出発点です。

Findings

この資料で押さえたい 4 つの結論

8 本の実験は別々に見えて、実は 4 つの大きなテーマに収束します。まずはそこを先に読むと、各図の意味がつながります。

1

強カオスほど複雑性は高い

LZMA ratio、Lempel-Ziv complexity、Permutation entropy はすべて strong chaos 側で増え、Lyapunov 指数と正相関を示した。

2

情報生成率は λ とほぼ同じものを見ている

KS エントロピー近似と最大 Lyapunov 指数は r = 0.9986 でほぼ一致し、軌道不安定性と情報生成がつながった。

3

カオスはノイズではない

Permutation entropy では白色ノイズがほぼ最大値 1 を取り、カオスとは 100% 分離できた。粗視化を変えても相対序列は保たれた。

4

強カオスでは情報が速く広がり、向きは消える

mutual information peak は strong chaos で早いが、transfer entropy は surrogate に近づき、局所的な方向付き情報流は弱くなる。

Experiments 1-2

複雑性と情報生成率は、どこまでカオスを追えるか

最初の 2 本の実験では、まず複雑性指標が chaos strength と整合するかを見て、その背後にある情報生成率の指標として KS エントロピーを重ねています。

Experiment 1

カオス強度と複雑性の比較

strong chaos の方が weak chaos よりも、圧縮困難性、新規パターン生成率、局所順序複雑性のすべてで高い値を示しました。

  • Lyapunov vs LZMA ratio: r = 0.7158
  • Lyapunov vs Lempel-Ziv complexity: r = 0.6739
  • Lyapunov vs Permutation entropy: r = 0.3479
  • LZ 系は長距離の情報生成に強く、Permutation entropy は局所構造の乱れを見ている
二重振り子の初期条件マップと weak chaos / strong chaos 比較
初期条件空間の chaos landscape と、weak / strong chaos の複雑性比較。
Lyapunov 指数と複雑性指標の相関図
LZMA と Lempel-Ziv は Lyapunov 指数と強く相関し、Permutation entropy はより局所的な違いを見ている。

Experiment 2

KS エントロピー近似と Pesin relation

Benettin 法で Lyapunov spectrum を推定し、正の指数和を KS エントロピー近似として比べると、最大 Lyapunov 指数とほぼ同じ形になりました。

hKS ≈ Σ λi+
  • Lyapunov vs KS entropy: r = 0.9986
  • weak chaos: hKS - λ₁ ≈ 2.5 × 10-2
  • strong chaos: hKS - λ₁ ≈ 4.2 × 10-2
  • 二重振り子では、軌道分離率と情報生成率がほぼ同じ軸に乗っている
KS エントロピー近似の初期条件依存と Pesin relation 比較
KS エントロピー近似は最大 Lyapunov 指数とほぼ重なり、二重振り子の chaos strength を情報生成率として読み直せることを示す。

Experiments 3-4

ノイズとの差と、粗視化に対する頑健性

カオスが本当に「力学的な複雑さ」なら、白色ノイズとは違うはずで、粗視化の取り方を変えても相対順序はある程度保たれるはずです。ここではそこを点検します。

Experiment 3

ランダムノイズ比較

同じ平均・標準偏差・長さを持つ白色ガウスノイズと比べると、Permutation entropy はノイズ側でほぼ最大になり、カオスと完全分離できました。

  • Noise permutation entropy = 0.9980 ± 0.0003
  • weak chaos = 0.2554 ± 0.0180
  • strong chaos = 0.2785 ± 0.0143
  • noise > chaos の share = 100.0%

Experiment 4

coarse-graining 依存性

LZMA ratio の絶対値はビン数に依存しますが、strong chaos > weak chaos、noise > chaos の序列は 4 から 256 bins まで維持されました。

  • strong chaos > weak chaos は全ビンで成立
  • noise > chaos も全ビンで 100%
  • 差が最も見えやすいのは 64 から 128 bins 付近
  • 絶対値よりも相対的な序列の方が物理的に意味がある
カオスと白色ノイズの Permutation entropy 比較
カオスはランダムに見えても、局所順序構造をかなり残している。
粗視化ビン数に対する LZMA 比の依存性
粗視化を変えても相対序列は残り、複雑性差がスケール横断的に観測される。

Experiment 5

coarse-grained entropy production を直接測る

位相空間に小さな初期分布を置き、セル占有確率から Shannon entropy S(t) を測ると、strong chaos の方が明らかに速く coarse-grained entropy を生成しました。

Entropy Growth

stretching and folding が熱力学的な見え方へ変わる

fine-grained では Liouville 的に保存される分布でも、粗視化すると強カオス側で急速にセルを埋め、観測可能な entropy が増えます。

  • weak chaos: dS/dt = 0.0563
  • strong chaos: dS/dt = 0.5955
  • slope ratio strong / weak = 10.58
  • occupied cells: 8 / 4096 → 308 / 4096
二重振り子の coarse-grained entropy production
強カオスでは、局在した雲がより速く位相空間へ広がり、entropy growth rate が local λ₁ や hKS と同じ序列を示す。

Experiments 6-7

部分系の情報流は、速さと方向で別の顔を見せる

θ₁ と θ₂ を部分系とみなし、まず excess mutual information で共有情報の立ち上がりと tail を見て、次に transfer entropy で方向付き情報流を見ます。

Experiment 6

mutual information decay

single-orbit の比較では、strong chaos の方が MI peak へ早く到達しました。ただし peak 後の tail はむしろ長く、単純な「情報が速く消える」という像にはなりませんでした。

  • weak chaos peak lag = 1.60, normalized area = 7.8962
  • strong chaos peak lag = 0.80, normalized area = 11.3314
  • strong chaos は早く届くが、必ずしも早く消えない

Experiment 7

代表軌道平均と transfer entropy

5 本ずつの代表軌道で平均すると、strong chaos の MI peak が早い傾向は残ります。一方で transfer entropy の方向性は weak chaos の方が強く、strong chaos ではかなり弱い。

  • weak chaos MI peak = 5.02 ± 6.39
  • strong chaos MI peak = 0.40 ± 0.25
  • directionality strength: weak 0.0017 ± 0.0007 / strong 0.0004 ± 0.0001
  • 強カオスは fast propagation だが、局所方向性は弱い
lagged mutual information の減衰比較
共有情報の立ち上がりは strong chaos で早いが、tail は単純には短くならない。
平均化した information flow と transfer entropy の比較
平均すると、strong chaos では情報共有は速い一方、方向付き情報流はむしろ弱くなる。

Experiment 8

shuffle surrogate test で「本物の構造」を残す

最後に時間順序を壊した shuffled surrogate を actual trajectory と比べることで、見えていた MI / TE が本当に力学構造に由来するのか、それとも有限標本バイアスや見かけの相関なのかを切り分けます。

Surrogate Test

MI は残る。TE は strong chaos でかなり消える。

weak chaos では MI も TE も surrogate を大きく上回り、強い決定論的時間構造が残ります。strong chaos でも MI は本物ですが、TE は surrogate にかなり近づきます。

  • weak MI peak: 0.7401 vs surrogate 0.0207
  • strong MI peak: 0.1919 vs surrogate 0.0398
  • weak TE excess area: 0.1351 vs surrogate 0.0029
  • strong TE excess area: 0.0072 vs surrogate 0.0046
  • TE empirical p: weak ≈ 0.077 / strong ≈ 0.262
shuffle surrogate test による mutual information と transfer entropy の比較
Weak chaos では coherent information transport が残る一方、strong chaos では global scrambled correlation は残っても、局所的で方向付きの情報流はかなり弱くなる。

What It Means

強カオスは、情報を壊すより scramble する

相関そのものは残ります。しかし時間順序を持ち、局所 subsystem からアクセスできる形の情報は薄れます。つまり strong chaos は fast scrambling and delocalization の像に近い。

  • MI lag share > q95 は weak / strong ともに 100%
  • TE lag share > q95 は weak 69.5%、strong 8.0%
  • weak chaos は coherent information transport
  • strong chaos は fast scrambling and delocalization

Takeaways

このページの読み終わりに残したいこと

二重振り子のカオス性は「未来が読めない」の一言では足りません。複雑性、情報生成率、混合、情報流を分けて見ると、何が増え、何が消えるのかがはっきりします。

A

カオスは情報生成として見える

Lyapunov 指数と KS エントロピー近似の一致は、軌道分離がそのまま情報生成率として見えていることを示す。

B

カオスはノイズではない

局所順序構造と coarse-graining を通しても、白色ノイズとカオスはきれいに分離される。

C

強カオスでは方向が消える

情報共有は速くなるのに、局所的で方向付きの予測可能情報はむしろ見えにくくなる。そこに scrambling の本質がある。